プロフィールProfile

ことばで未来の扉を開く
ビジョンクリエイター

未來交創株式会社代表取締役/ビジョンクリエイター/文筆家

まえやすまさ

ペンネーム わらさくらひと

【プロフィール】

早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了
1982~2016年、朝日新聞社/校閲部長・用語幹事
2016~2020年、朝日新聞メディアプロダクション/校閲事業部長 
「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」「あのとき」など、十数年にわたり朝日新聞に漢字や日本語に関するコラムやエッセイを毎週連載。

文章をめぐる小さな物語

中学3年の時に大阪から来た転校生に、「大阪の女友達から文通相手を探してって言われたから、紹介しといたよ」と、突然通告された。しかし、僕はそのオファーを無視した。

しばらくして、大阪から手紙が届いた。封をあけることもなく、そのままにしていた。しかし、封書に書かれた字がとても丁寧で綺麗だった。次第に申し訳ないような気になった。10日ほどして、ようやく手紙を読んだ。驚くような内容があったわけではない。すぐに返事が書けなかった。何を書けばいいのかわからなかったからだ。大阪からは、1週間に1回くらいのペースで手紙が届いた。僕は月に1回書くのが精いっぱいだった。

「なぜ、書かないのだ」

高校の受験に失敗し、まったくやる気をなくした僕は手紙も書かなくなった。高校2年を迎える頃だったか「なぜ、書かないのだ」と痛烈に僕を非難した手紙が届いた。家族ともほとんど口を利かず、斜に構えて友達もほとんどつくらなかった。

「なぜ、書かないのだ」ということばは、「なぜ、書かなくてはならないのか」という逆向きの疑問となって、僕の頭の中をぐるぐる回り始めた。

受験に失敗して、僕は何を失ったのだろう。いや、何かを失ったのか。そもそも失うべきものがあったのか。とりあえずご飯も食べている、寝てそして目が覚める。それでも、ことばにならない喪失感が覆いかぶさり、うまく息が吸えない。

ぽっかり空いた穴を埋めるために、ひたすら本を渉猟し、大音量でロックを聞いた。空いた穴は、何かを取り込んで埋めなくてはならない。ひたすら内に内にと入り込んでいった。

言うなれば、精神的過呼吸だ。何かを取り込もうともがくあまり、息を吸うことばかりに意識を向かわせていたのだ。そして、息を吐くことを忘れていた。それこそが息苦しさの原因だった。

「なぜ、書かないのだ」ということばは、「なぜ、吐き出さないのか」「ちゃんと呼吸をして、過呼吸から脱せよ」というサインだったように思えた。必要なのはインプットではなくアウトプットではないのか、と。

書いた。B5版のノートに向かってひたすら書いた。書き出したら止まらなかった。日記にもならない支離滅裂な内容。そもそも内容なんてない。ただ、書いた。夜を徹して、ノート1冊を埋め尽くした。スッキリしたわけではない。ますます混沌の嵐が吹き荒れてきた。そんな乱暴な文章は、そのままゴミ箱に捨てるべきものだ。でも、なぜか僕はそれを大阪に送った。返事を期待することもなかった。

それから数週間後、手紙が届いた。「よかった。ありがとう」

それ以降、こうした手紙を送ることはなかった。僕はひたすらノートに書き続けた。それでも息苦しさが治まるには、それから数年かかった。

「時」を記す

文章には、自分という存在がにじむ。自分の存在は、過去から未来に流れる瞬間瞬間に積み重ねられた「時」によって形づくられる。人生観や思考はその「時」に大きく依っている。つまり、文章は自分自身の「時」を記すことでもある。

「時」を記すことは、自分自身の存在意義を明らかにする行為でもある。それは、いつでも自分に立ち返ることができる「場」をつくることにもなる。しんどい作業かもしれないけれど、自分自身への救いもあるのだ。

自分の身に降り掛かった事実でさえ、これを客観的に表現することなんてできない。ただその時その時の、気持ちのゆらぎを記せばいい。他人に読ませることを前提にする必要もないから、日記でいい。これが難しければ、メモでいい。
深い怒りや悲しみは、時とともに和らぐということはなく、ただ意識の底に沈潜していくだけなのかもしれない。

それでも、時とともに怒りや悲しみのグレードは(変化しないということも含めて)変化する。和らぐにせよ、増幅するにせよ、経年の変化を知ることはその状況を比較できる。その時々の気持ちのゆらぎを記録し続ければ、時間の経過によって余分なものが削ぎ落とされ「芯」が立ち現れる。それを客観的に見て長期的な判断をすることが、「時」を記す意義なのだ。

思春期の僕が、両親に「うるせーな」と言い放った、たったひと言の後ろ側には、たくさんの積み重なった思いがあった。その思いを書きなぐることで、何とか均衡を保てた。振り返れば、他愛のないことのように思える。それでも、そのときは必死に「デペイズマン(ここではないどこかへ)」を探し求めていたのだ。

僕たちが抱える悩みは、考えることによって課題になる。課題であれば、解決方法を見いだすことができる。文章を書くということは、思考の軌跡を記すことだと、僕は信じている。

一浪して入った大学にも馴染めず大学を受験し直した。入学金・学費・生活費は自分で賄った。社会に出たときは26歳だった。遅すぎた一歩かもしれない。でも僕は文章を書き続けることによって、一歩を踏み出すことができた。「思考の軌跡」は「人生の奇跡」を与えてくれた。人生はそう捨てたものではない。

僕が文章を書き、人に文章を書くことを勧めるのには、こんな思いがあるからなのだ。

【講演実績】

●自治体研修
東京都特別区職員研修、東京都市町村職員研修、千葉県行政広報研修、全国町村議会議長会研修、新潟県町村議会議長会研修、山梨県町村議会議長会研修、島根県町村議会議長会研修、神戸市職員研修、兵庫県町議会議長会研修、神奈川県愛川町生涯学習講座、東京都中央区生涯学習講座
●企業研修
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 広報研修
ウシオ電機株式会社 広報研修
日産自動車株式会社・社内広報研究会
経団連事業サービス主催 社内報実務研修
株式会社アグレックス 広報研修
株式会社ギークス 広報研修
株式会社コンセント 文章研修
手塚プロダクション 文章研修
株式会社TKC出版 文章研修
大分サービス産業生産性向上人材育成講座
Yahoo!基金「予防的危機管理としての校閲」
MTJAPAN広報研修「読み手に伝わる文章の直し方」
株式会社IIJ 広報研修
若手広報の会「校閲研修」
杉並区中学校PTA協議会「やさしい文章の書き方」
●学会・シンポジウム・ヒアリングなど
内閣府障がい者制度改革推進会議ヒアリング
北海道理学療法士道南支部学術大会・招待講演「ことばを情報にする」
産業日本語研究会・シンポジウム講演「SNS時代の文章」
日本地形学連合・招待講演「地形学と辞書」
●大学関係
慶応大学・放送特殊講義ゲスト講師「メディアと文章表現」
玉川大学文学部非常勤講師「メディアと文化表現」
玉川大学キャリアセミナー「ESを基に伝わる文章を考える」
早稲田大学メディア研究所ゲスト講師「ネット時代のリテラシー」
早稲田大学生協「エントリーシートの書き方講座」
専修大学・経営学部経営組織論A1ゲスト講師「わかりやすい文章を書く」
専修大学・学生と社会人の未来会議ゲスト講師「マジ文講演会」
聖徳大学言語文化研究所公開講演会「世相を映すことば」
●カルチャーセンター/ワークショップなど
朝日カルチャーセンター千葉教室「漢字んな話」
朝日カルチャーセンター立川教室「声に出して書くエッセイ」
朝日カルチャーセンター中之島教室「わかりやすい文章を書く」
早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校「3行しか書けない人のための文章教室」
Schoo「マジ文章書けないんだけど」など
朝日キッズスクール・親子作文教室「なんでナンデさくぶん」
Kids Duo経堂・親子作文教室「なんでナンデさくぶん」
イフラボ笹塚教室・親子作文教室「なんでナンデさくぶん」

【メディア出演】

ラジオ・テレビ
TBSラジオ「High School a GOGO!」「ACTION」
文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」「くにまるジャパン極」
フジテレビ「ノンストップ!」
新聞・雑誌・ネット
朝日新聞デジタル「ちょい読みから楽しむ」
日刊ゲンダイ「この人に密着24時間」
NO BOOK NO LIFE「マジ文章書けないんだけど」レビュー
日経おとなのOFF「マジ、文章が書けない! という人のための書き方練習帳」
BIGtomorrow「話題のBOOK interview」
ユニヴ・プレス「『WHY』を使って文章力を磨く! 」ロングインタビュー
週刊文春「文春図書館 ベストセラー解剖」
公募ガイド「文章指導のプロに書き方を聞く 文章表現ラボ」
月刊事業構想『ほめ本』著者インタビュー
新聞研究ブックレビュー「マジ文章書けないんだけど」「マスコミ用字用語辞典」 

【連載・執筆】

  • 日本漢字能力検定「漢字Café 漢字の字源」「TEACHannel 文章の書き方」
  • マガジン・マガジン「絶品漢字堂 on 前田安正の漢字小咄」
  • 東洋経済ONLINE「『作⽂』が書けない⼦に教えたい3つの⾔葉」「残念なエントリーシート」に⽋けている視点」
  • AERAdot.「恥をかかない⽂章の書き⽅ 侮るなかれ!『視点』⼀つで⽂意が変わる」
  • 「3⾏書くのがやっと… そんな⼈でも『W』を使えば⻑⽂がスラスラ書ける!?」
  • 日本語学「民間で信じられる字源の俗説」「わかりやすい記事を書くために 朝日新聞に見る漢語と大和言葉」「敬語と新聞 朝日新聞に見る敬語報道の変遷」
  • 季刊ひょうご経済「再読 再発見 この二冊」
  • Journalism「ブランドを支える校閲の生態」
  • プチナース「ちょっと直せばぐっと良くなる! レポートの書きかた」
  • MARKETING HORIZON「無理上等 ことばの枠を取り外せ!」
  • OLmanual「ビジネス必須のスキル 文章がメキメキ身につく30分講座」

【著書】

  • 『マジ文章書けないんだけど』(2021年6月現在9万7000部、大和書房:2017年/19年・台湾で翻訳出版)
  • 『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(6万部、すばる舎:2013年/19年・韓国で翻訳出版/20年・朝日文庫)
  • 『クレオとパトラのなんでナンデさくぶん』(大和書房:2018年/中国で翻訳出版予定)
  • 『ほめ本』(ぱる出版:2020年)
  • 『マスコミ用語担当者がつくった 使える!用字用語辞典』(共著・三省堂:2020年)
  • 『ヤバいほど日本語知らないんだけど』(朝日新聞出版:2019年)
  • 『3行しか書けない人のための文章教室』(朝日新聞出版:2017年)
  • 『しっかり!まとまった!文章を書く』(すばる舎:2015年)
  • 『間違えやすい日本語』(すばる舎:2014年)
  • 『漢字んな話』『漢字んな話2』(三省堂:2010年、12年)