第1回「LINEで話す」
2017年10月10日
「最近、彼女とはLINEでしか話してないからなあ」
電車を待っているホームで、耳に飛び込んできた会話の一節。LINEも電話機能があるので、そのことを言っているのかと思いきや、
「いまLINEしてみるわ」
と、スマホをにらんで文字を入力している。
「LINEで話す」かあ。確かに、チャット(chat)は「雑談」とか「おしゃべり」っていう意味だから、あながち間違った使い方ではないんだよなあ、と思いながら電車に乗ったのでした。
新しい技術が導入されると、人の行動とことばが変化するのかもしれない。
ファクスがオフィスに潜り込んできたとき、届け先に「いま、ファクスしました。届いていますか」という確認電話をしている先輩が必ずいたでしょ。まあ、これは電話番号を間違えることもあるので、たしなみの一つとして、微笑ましい光景に映るんだけど。メールを送った後に「いまメールを送ったのですが、届いていますか」と電話で確認を取っていた人もいたでしょ? 見えない、聞こえない相手にモノを送るなんてとても不安なことなんだ。
ちなみに新聞では「ファクス」を「ファックス」とは表記しない。ある先輩から「4字ことば」の「fu○k」と間違われるといけないから、と教わったのだけれど本当の理由は少し違う。「促音『ッ』は、原音ではっきりしているもの以外は省略する」という外来語の表記原則に沿ったもの。だから「スパゲティ」も「スパゲッティ」とは表記しないのです。
インターネット回線が入ってきたばかりの頃、同僚が「きょうは、インターネットは休みみたいだ」と真顔で言ったんだ。「どうしたの?」と聞くと「電源を入れてもつながらない」と言う。よく見ると、LANケーブルにつないでいなかった、というオチ。オチはともかく「インターネットは休みみたい」という発想が、何ともいい。ブラック企業ということばが、まだない時代。「インターネットは24時間休みなしで働いているんだよ」
もう20年ほど前の笑い話なんだけど、いまは「LINEで話す」時代になっているのだ。AIだのビッグデータだの言われると、当時の先輩や同僚を笑ってはいられない。「最近、AIとしか話をしていないからなあ」。そのうち、こんな台詞が飛び出すんだろうか。